認知症
認知症とは、脳が病的に障害されることで記憶や判断力・思考力などが低下し、日常生活や社会生活に大きな支障をきたす状態を指します。誰でも年齢とともに脳の機能は低下しますが、認知症の場合はその低下が著しく、日常生活に支障をきたすほど進行します。
認知症は誰にでも起こり得る病気で、近年高齢化が進む日本では認知症患者数は増加傾向にあり、現在約650万人もの方が認知症と診断されています。
もの忘れには「加齢」によるものと「認知症」が原因となるものがあります。「加齢によるもの忘れ」は、脳の生理的な老化によるもので異常ではありません。本人に自覚はあり、進行性でもなく、日常生活に大きな支障をきたしません。
一方「認知症によるもの忘れ」は、脳の機能が顕著に障害されることにより起こり、本人に自覚がなく進行性であり、日常生活や社会生活に大きな支障をきたします。
また、甲状腺機能低下症やビタミン欠乏症、神経梅毒など、認知症とよく似た症状を引き起こす病気も色々あるため、早期に適切な診断を受けることが大切です。
症状
認知症の主な症状は中核症状と呼ばれ、以下のような症状があらわれます。
- 記憶障害
物忘れがひどくなり、物事を記憶することが困難になる - 見当識障害
日時や場所だけでなく、人の名前もわからなくなる - 実行機能障害
料理ができない、買い物ができないなど、筋道を立てて物事を考えることができなくなる
など
また、上記の中核症状に付随して、行動心理症状(BPSD)と呼ばれる様々な症状も認められます。
出典:「https://kaigo-madoguchi.com/bpsd?認知症の2次的な症状/」
- 不安
落ち着かない、イライラしやすい - 幻覚・妄想
あるはずのないものが見えたり聞こえたりする、物を盗まれたという - 抑うつ
意欲低下などうつ病に似た症状が認められる - 徘徊
見知った場所の認知や判断が出来なくなり歩き回る - 介護への抵抗
入浴を拒否したり攻撃的行動をとるなど介護に抵抗する
など
BPSDは、周囲の不適切なケアや身体の不調、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れる症状です。中核症状によって引き起こされる二次的症状であるため、最初は中核症状が現れます。例えば、人の名前や場所、時間が分からなくなる見当識障害がある場合、「ここはどこ?」「あなたは誰?」という混乱が生じます。こうした状況はとても不安なものであり、こうした不安や混乱がつづくことによって、徘徊や興奮、暴力行為といったBPSDが現れます。
大切なのは、「混乱や不安の原因を理解すること」です。ご本人が安心できるよう混乱しないように適切な対応をとることで、穏やかに生活することが可能となり、症状が現れることなく日常生活を送ることができます。逆に、理解されないことで症状がより悪化し、介護が困難となるなど、悪循環に陥るケースもあります。ご家族、介護者の方が気持ちにゆとりを持って、認知症の人に向き合うことができる環境作りが大切です。
認知症の種類
アルツハイマー型認知症
認知症全体の約7割を占める最も多いタイプです。脳の神経細胞に異常なタンパク質がたまることで神経細胞が破壊され、その結果脳が萎縮して認知症の様々な症状が現れます。
脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって脳の神経細胞が破壊されることで起こる認知症です。根本的原因である脳卒中予防のために、生活習慣の改善が重要です。
レビー小体型認知症
レビー小体と呼ばれる異常なタンパク質が脳の神経細胞にたまることで起こる認知症です。認知機能に波があることが多く、良い時もあれば悪い時もあります。その他幻視や睡眠時の異常行動、パーキンソン症状などが特徴的です。
前頭側頭型認知症
名前のとおり、大脳の前頭葉と側頭葉が特異的に委縮し認知症の症状を呈する病気です。前頭葉あるいは側頭葉のいずれかのうち一部が萎縮し始め、進行すると前頭葉と側頭葉の両方に萎縮する範囲が広がっていきます。以下に示すように、人格や行動の変化が特徴的な認知症です。
- 万引きや信号無視などをくり返す
- 相手に失礼な発言をしたり、暴力的になったりする
- 身だしなみに気をつかわなくなる
- 毎日同じところへ出かける
- 毎日同じ料理を食べ続けたり(偏食)、食べすぎたり(過食)する
出典:https://etouhp.com/news/id_4838
治療
認知症そのものを治す治療薬は残念ながら存在しませんが、症状を緩和したり進行を遅らせたりするために、以下の薬を考慮します。
コリンエステラーゼ阻害薬
- ドネペジル(商品名アリセプト)
- ガランタミン(商品名レミニール)
- リバスチグミン(商品名リバスタッチ)
NMDA受容体拮抗薬
- メマンチン(メマリー)
その他、主にBPSDの改善を目的として、漢方薬を使用する場合もあります。
当院では必要に応じて近隣の連携医療機関でMRI検査を行って頂き、その結果(脳萎縮・脳血流低下など)を踏まえて総合的に判断いたします。
その他
2023年12月に、新しい認知症の薬としてレカネマブ(商品名レケンビ)が発売され、保険適用となりました。
今までの薬が神経細胞の機能低下を補うような作用であったのに対し、レカネマブは認知症の原因となる脳内にたまったアミロイドβという異常タンパク質を除去することで、症状の進行を直接抑制する画期的な薬です。「アルツハイマー型認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)」と「アルツハイマー型認知症による軽度の認知症」の方が適応となります。
認知症に対する画期的な新薬として期待が高まっていますが、年間薬価が300万円弱と非常に高額な点滴薬であるということや、脳出血や脳浮腫などの副作用の懸念もあり、色々と検討課題が残されているのが現状です。
出典:https://www.eisai.co.jp/news/2023/news202374.html